・・・目が冴えてしまった。
溜息を一つ吐いて、毛布を押しのけた。







他の者を起こさぬようそうっとテントから這い出す。
キャンプしているこの場所は山の中。テントの周りは林に覆われている。
夜なので鬱蒼とした感じは拭えなかったが、生活上野宿も珍しくはないのであまり気にはならなかった。
何のはずみで目が覚めてしまったのかは分からないが、覚めてしまったものはしょうがない。
今何時ぐらいなのかも分からないけれどまだ闇は深い。起きていればそのうち眠気が襲ってくるだろう。
足音を忍ばせて数歩歩いた後、ふと上を見た。
「うわぁ・・」
小さく声を漏らす。なんとも見事な星空である。
そこには無数の星が競い合うようにひしめき合っていた。
そのまま少しの間突っ立っていたが、やがて傍に高い木があるのに気が付いた。
瞬間、思い浮かんだ考えに従って木に近寄る。
幹は太く、がっしりとしていた。触れるとざらざらとした感触。手をそのままに見上げると、これも太い枝々が無数の葉と折り重なっていた。
ちらっとテントに顔を向ける。
  ・・・大丈夫だよね。
にっと笑って、両手を幹にかけた。


「わぁ、よく見える」
葉を掻き分けると、眼下には囲むようになった木々が見下ろせた。やはりこの木はひときわ高さがあるようだ。上を見遣ると、先程よりも星が大きく見えるのは気のせいではない。
月は無いけれど幹には瘤状になった部分も多く、慎重に手足を掛けていけばさほど苦も無く登ることができた。
背を幹にもたせかけて星を見る。その光はちらちらと明滅していて、瞬くとはよくも言ったものだと改めて思う。
  ――そういえば、こうして一人になるのも珍しいな。
普段は誰かしら傍にいて、このようにそれなりの間一人でいるという事は久々であった。
別にそれが苦という訳ではないのだけれど、この時間が多少新鮮味を帯びているのは否定できない。
そのまましばらく眺めていたのだが、突如吹いた風でかすかに身震いが起こる。
決して強い風ではなかったのだが、運ばれる空気は冷たさを帯びていた。
最近朝晩はやけに冷え込むようになってきた。上着を持ってくればよかったかとわずかに後悔したが、わざわざその為に木を降りるのも億劫で、代わりに両足を抱える。
  そうか、寒くなって空気が澄んできたからこんなに綺麗に見えるんだ・・・
もう少し季節が進んでもっと寒さが増せば、この空は更に美しくなるのだろう。そう思うと、なんとなく微笑が浮かんだ。
だがまた一つ吹いた風にその思考は中断された。
今度は苦笑が浮かぶ。これではいよいよ風邪を引きかねない。
そろそろ降りようか。瞼にいくらかの重たさを感じる。もう眠れるかもしれない・・
一旦地面に目をやったが、ここから見える景色に名残惜しさを感じてもう一度空を仰ぐ。
視界一杯に広がる満天の星が本当に綺麗だ。比喩などではなく、今この時目に入る一つ一つの光がどこか優しく感じられる。
その時、視界の隅で小さな光が流れたような気がした。
反射的にそちらに目を向けた瞬間―――ぐらりと重心が傾いた。



→後

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