あまりにもいい陽気だったから。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
・・・声がする。
何人かの子供の声。
――それから、聞き慣れた彼女の声。
彼女の住む町の堤防。
陽が暖かくてあまりにも気持ち良かったものだから、いつの間にやらうとうととしていたらしくて。
今自分が寝そべっているのは木陰。その木を隔て、頭の向こう側から賑やかな声が響いている。
「あー!お花きれい!」
「いえにもってかえろー!」
「はいはい、でもちょっとだけにしておこうね?」
・・近所の子かな。
下の草地に体が吸い付いているようで、ともすればまたすぐ眠りに落ち込んでしまいそうだ。
半分は未だ夢の中の頭に入ってくる声に、ふと微笑が浮かぶ。
「ぼくおかーさんにあげるんだ!」
「へえ、お母さんきっと喜ぶわね。」
「あたしもあげるの!」
「・・じゃあ、あたしもおみやげに少し摘ませてもらおうかな。」
――サッちゃんも摘むのかあ。
・・サッちゃんも、誰かにあげるのかな。
それからまたわいわいと会話が交差していたのだけれど。
少しして、ある女の子の声が耳についた。
「あたしねー、おかーさんだいすき!だからおかーさんにあげるの!」
「おねーちゃんおねーちゃん、」
「おねーちゃんもそのひとだいすき?」
――――少し、間があった。
けど、やがて。
「・・・・・・・・・そうね。」
顔は見えなかったのに。
優しく笑うその姿が目の前にあるようだった。
―――そっか、やっぱり誰かにあげるんだ。
『だいすき』
・・・そっか。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・誰、に・・・・・・?
―――耳元で、すうっと息を吸うような気配がした直後。
「遅い!!!」
「うわぁ!!」
大音量で響いたいきなりの怒声に驚いて跳ね起きた。
「・・あ、あれ?」
半身を起こしたまま寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、陽は既に傾いていて西の空は茜色に染まっていた。また眠ってしまったのか。
「いつまでも何やってんのよあんたは!迎えに来るあたしの身にもなんなさいよ!」
「ご、ごめん。」
そういえば子供たちの姿は無い。もう夕刻、家に帰ったのだろう。
はあと溜息を吐いて彼女は立ち上がった。
「ほら、早く帰るわよ。」
「う、うん」
・・というか、遅いと思うなら起こせば良かったのでは。自分がここで寝ているのはとうに気付いていたろうに。
―――寝かせておいてくれたんだろうか。
と、立ち上がろうと体を傾かせかけた時。
ぽとりと、胸の辺りから何かが落ちた。
膝の上には、一輪の花。―――花弁が青みがかった。
「・・・これ」
「ああそれ、綺麗でしょ。」
「すぐそこに咲いてたのよ。あんたはぐーすか寝てたから知らないだろうけど」
「珍しい花でしょ。青くて」
「――少し、センジュ君の髪に似てる」
「あげる」
・・・ええと。
・・・だって、これは。
さっき。
「センジュ君」
――――な。
「センジュ君?」
―――『だいすき』、な、・・・に、と。
「センジュ君!」
「―――センジュ君、どうしたの・・?」
「・・・顔、真っ赤よ・・・?」
――その原因が当の自分にあるとも知らず、風邪でも引いたかしらと覗き込んでくる彼女。
ああ、もう。
なんだか頭がぐらぐらしていて。
何故ぐらぐらしているのかも解らなくて。
解らなくて、だけど。
「センジュ君?」
この花がこの手に在る事と、頬の熱は。
確か。
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この文章を書くのは二度目です・・
何故って以前パソがぶち壊れて初期化して消えたから。
バックアップって大事だなあ・・はは・・(遠い目)
ブラウザバックお願いします〜。
背景はこちらからお借りしました。ありがとうございました。
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