「ねえセンジュ君、怖くない?」
「え?」
手を
「何が?」
「いや、だから。そこ。」
サチはセンジュの足許をこわごわと見ている。
「別に?」
「別にって・・・」
センジュがひょいひょいと歩いているのは薄い塀の上。
と言っても上ったその高さは、下にいるサチの頭がセンジュの腰辺りにくるぐらい。
それだけなら何も言わないのだけれど。
「危ないじゃない。落ちたらどうするのよ」
進行方向向かって左側は、舗装された道路が敷かれている。
しかし右側塀の下には切り立った崖になっているのだ。
数十m下には絶えず波の上下する海が広がっていた。
「絶対危ないってば」
「大丈夫だよ」
「どこがよ」
サチはここで驚かせたら落ちかねないと、敢えて怒声を上げないようにしている。
確かにふらついている訳でも無し、その歩みに危なげは見受けられないのだが。
見ている方はどうしてもハラハラして仕方が無い。
「大丈夫だよ。それに下からの風が気持ちいいよ」
下は海。冷気を含んだ風がわずかに吹き上げてきていて、少しだけ橙の衣の裾が煽られていた。
今日は日差しが強いので、その風は肌に心地良い。
「・・そうなの?」
「うんそう。・・・って何してんのサッちゃん?」
「え、だって」
涼しいんでしょ?と言いながら、サチは足を掛けて塀に上りにかかっていた。
「いや、危ないってば」
「大丈夫って言ったじゃない」
さっきとまるきり逆の立場でものを言いながら、結局サチはすっくと塀の上に立った。が。
「こっ怖!」
「ほら・・」
ちらりと右下を見遣ると地面は無く、代わりに遥か下に揺れる波。
うわ〜と言いながらサチは自分の目を両手で覆った。
そんなサチを見ながらセンジュはやっぱりと言う顔をする。
「危ないって。降りたほうがいいよ」
「こ、怖い・・・怖い、けど、確かに涼しい・・・」
それ涼しさって言うよりも寒気なんじゃ・・
そう思ったものの口には出さず、代わりに再び降りるよう促そうとした時。
「歩いても大丈夫かしら・・」
「は?」
思わずセンジュは間の抜けた声を出す。
いやいや、歩けるものならとっくに歩いてるだろう。
そして実際は上ったきりのままの彼女なのだ。
「いやセンジュ君普通に歩いてたし・・それに」
気持ち良さそうだったから、と下の光景を恐る恐る見つめながら付け足した。
や、言ってる事と行動が噛み合ってないし・・
そう思いながらも、降りる気配は無い目の前の彼女。
センジュは少し苦笑を漏らした。
それから、
「え?」
サチが少し声を上げる。
共に塀の上にいたセンジュがぱっと道路に飛び降りたのだ。
しかしすぐにくるりと向き直って。
「はい」
「・・・・え?」
差し出されたのは彼の右手。
「はい」
センジュは笑顔を浮かべながら繰り返す。
「・・・・何?」
「手」
「は?」
「持ってるから」
――― 一瞬何を言うのかと、サチはやや呆気にとられる。
しかし差し出されたままの手を見て、ためらいがちに左手をゆっくりと伸ばした。
やがて、右手と左手がふと重なった。
――――瞬間、鼓動が早くなった気がするのはきっと気のせいだ。
そう思ったのはどちらだったか。
暖かい。どちらからともなく、軽く力を込める。そっと。
互いの顔に目を遣ると、視線がぶつかった。
最初とは逆の目線。
―――なんだか可笑しい。
二人して微笑が浮かぶ。
「―――歩ける?」
「うん」
やや熱を帯びた気がする頬に冷えた風を感じながら。
二人同時に一歩を踏み出した。
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「繋ぐ」、そして暗に「支える」という感じを出したかった作品です。
・・出せたかどうかはともかく。
ブラウザバックお願いします〜。
背景はこちらからお借りしました。ありがとうございました。
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