鈴の音が聞こえたような気がした。



みえなかった言葉




辺りを見渡すと、少し離れた所に幾人もの人の姿。列になって。
多くの人が黒の着物を纏っている中、目を引くのは唯一の白装束。

「わあ、花嫁行列!」
サチが思わず上げた嘆声にセンジュが首を傾げる。
「花嫁行列?」
「そう。お嫁入りよ」
駕籠に乗った白無垢の女性。ゆっくり、ゆっくり畦道を歩んでゆく。
「まだこんな風習が残ってるのね・・」
なんとなく二人して足を止める。

少しづつ遠ざかる人の群れ。センジュがちらりと横を見遣ると、サチの目は行列をじっと見つめたまま。
やがて、ポツリと一言。
「・・・・いいなあ」
「え?」
センジュの疑問の声に、何故かサチはぱっと驚いたような表情。
「あ、れ、口に出てた・・?」
サチは口に手を当てて恥ずかしそうに苦笑する。
「花嫁さんがいいのかい?」
センジュの質問に、サチはうーんと考えて答える。
「女の子だったら大体花嫁にあこがれるんじゃないかしら」
「そうなの?」
「そうよ」
サチはそのまま続ける。
「綺麗な着物とかドレスとか着てさ」
白い花嫁はもうかなりの距離。それでも緑の景色に鮮明に浮かび上がる真白の色。

「・・それに、すごく幸せそうじゃない」

愛しい人のもとへ、一歩一歩近づいてゆくあの人。


「・・・なればいいじゃないか」
「は?」
サチは間の抜けたような声を出した。今何か変なこと言わなかったかこいつは?
「だから、なればいいじゃないか、花嫁」
「はっ!?」
当然のような顔をして言い放つ男。聞き違いではなかったらしい。
しかし本気で何を言い出すのか。頭が痛むような感覚に襲われる。
「・・・いきなり何なのよあんたは・・・」
「え、だってなりたいんじゃないの?」
「あ、の、ねえ・・ていうかそんな暇あるわけないでしょ、あたしに」
インドへ行って悟りを開かねばならない身。果たして結婚など出来るのか、許されるのか。
やらねばならないことは、確実に困難を極めるというのに。
ん?いやそう言う事では無くていやそれもあるけど・・・――何だかどんどん訳が分からなくなってきた。
「別にいいじゃないか。なりなよ、花嫁さん」
――次々と吐き出される言葉に溜息が出る。本当に頭が痛くなってきた。
片手を自分の頭にやって、くしゃりと髪をつかむ。
「あんたねえ・・・そんな先の事言われても・・―――大体、」

花嫁は、もらってくれる人が居なければなれないのよ。

・・・後の言葉は音にしないまま、代わりに溜息ひとつ。

「――大体、なに?」
「・・・もういいわ、帰りましょ」

――本当に、嫌になる。

花嫁行列の姿は既に見えなくなっていた。
「さ、行きましょ。みんな待ってるわ」
サチは踵を返してさっさと引き返し始めた。
センジュもそれに続こうとしたが、足を止めてもう一度行列が消えた方を振り返る。

「・・・サッちゃん」
「え?」
サチが振り返ると、先程の場所から動かないまま道の向こうを見つめるセンジュ。背はこちらに向けたまま。
「どうしたの?」
風が吹いて、視界の緑がゆれる。土の匂いが濃い。

「――――もし、」

風、一陣―――その瞬間、

「サッちゃん!」
突如後方からかけられた声に二人して振り向く。そこには見慣れたバンダナ姿。
「あ、アンナちゃん!」
「何やってんのよあんたら。遅いから探してたのよ」
全くもう、と息を吐く彼女。それを宥めるようにサチが言う。
「ごめんごめん、帰ろ。ほら、センジュ君」
「あ、―――うん」
センジュを促して、サチとアンナは並んで歩み始めた。
しかしセンジュの足は止まったまま。


『―――もし、』


一体自分は。

何を言おうとしたのか。


不意に口をついて出ようとした言葉。
それはほんの少し姿を見せただけで断ち切れてしまったけど。


胸の辺りに訳の分からない感覚。確かに垣間見えるのは、混沌。



右手を喉に添えて息を吸う。深く。

そして息を吐き出し切ると、二人の背中を追って足早に歩き始めた。


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これも以前から暖めていた作品です。コンセプトは「読者様の想像を掻き立てよう」(オイ
しかし同語の重複を避けるってやはし難しい・・_| ̄|○;

ブラウザバックお願いします〜。

背景はこちらからお借りしました。ありがとうございました。
→「自然いっぱいの素材集」様

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