「・・・・・・・・・ごめん」
俯いたまま呟いた。

「だからセンジュ君のせいじゃないってば。どうして謝るの」
「・・・でも、ごめん」
「こんなのぜーんぜん平気だって」

いつものように明るい顔で話す彼女。しかしその左頬には似合わない大きさの湿布が貼られていた。

「どうってことないわよ、すぐ治るわ。大袈裟ねー」
「どこが」
大袈裟なんだ。長袖の下にいくつも傷があるくせに。
「生きてるんだもの、怪我くらいするわ。むしろ最近怪我が無かったっていうのがおかしいのよ。みんな過保護にしすぎよ」
「・・・そんな事言ったって」
「大丈夫だってば。くどい!」
そう言うと突然彼女は後ろに回って、ぐいと背中を押してきた。
「ほら中に入ろ!まだ夜は冷えるんだから!」
「あっそんなに押したら傷に障るだろ!」
「あーもーだから大丈夫だってば!前は怪我なんていつもだったし!」
「え?」
あ、と後ろで声が漏れた。首だけ振り向くと口を押さえて目線を逸らしている。

そのままちょっとの間沈黙が流れる。

「・・・・え--------と、うん、ね。」
明らかにしまったという顔。
「あ--------だから、」


「・・・結構怪我多かったの。昔は。----------だから、大丈夫」


「・・・・・・・・」
「ほら、帰ろ」
またぐいと押される。

・・・小さい頃から並以上に苦労しているようだとは思っていたけど。
それでどうして怪我が多くなるのさ。

首を後ろに向けたままでいると、かちりと目が合った。
瞬間、彼女がぱっと下を向く。
「・・・〜〜〜色々あったの。色々と」

色々って何さ。
まだ十数年しか生きてないくせに、なんで怪我に慣れるんだよ。

「色々」

だから色々って。



「・・・・・・・・・あたしだから、色々」



サッちゃん、だから。



・・・・何だよそれ。

「ほら帰るわよ!」

何だよ、それ。

どんな理由だよ。理由じゃないだろ。
理由になってたまるもんか。

何で。
----------何で。

いつまで経っても僕の足が動かないので、サッちゃんが顔を上げてこっちを見た。

そのまま驚いた顔になる。


「----------何でそんな顔してるのよ・・・」

----------え。


「・・・・そんな顔」
「・・・なんて顔してるのよ」

------どんな顔してるんだろ、僕。
何か妙に苦しいのは分かるのだけど。

苦しい。すごく。

「・・・・・ごめん、サッちゃん」
「え」
「怪我」
「っだからー、」
「君が構わなくても」


「僕は、サッちゃんに怪我してほしくない」


「して、ほしくなかった」


させたく、なかった。



「・・・・・・・」
彼女が黙る。
そのまま俯いた顔に、そっと右手を伸ばす。
湿布を貼った頬に触れかけ、そこで止める。

「・・・痛くない?」
伸ばしたものの、触ったら痛いだろうかとかそれ以外のよく分からない感情とかが同時に浮かんで、手はそのまま行き場を失った。下を向いたままの彼女。
ひとつ間を置いて、浮いたままの手に感触。
見遣ると、ゆっくりと伸びた彼女の両手が、自分の腕に触れていた。
思わずぴくりと腕が動くが、構わずそっと包まれる。
そのまま手を持っていかれたのは、触れるのを逡巡した彼女の頬。
繊維のややざらりとした表面が手の平に当たる。

「・・・・大丈夫だよ。触っても、痛くないよ」

彼女が呟く。

「痛くない」

手をそのままに、彼女が目線を上げる。
穏やかな笑顔。

------少しだけ、その目が泣きそうに見えるのは気のせいだろうか。

湿布越しに伝わる体温の暖かさが、ひどく優しく思える。
添えられた手も--------彼女の僕を見つめる目も。


何故だか、泣きそうになった。


「痛くないよセンジュ君。痛くないから」


「・・・・ありがとう、ね」


優しい声。


本気で僕を泣かす気じゃないだろうか。


「・・・・・ほら、帰ろ。本気で冷えちゃうよ」
「・・・・ん」
彼女の頬から自分の手が離される。
その時遠ざかった温みに、ふと名残惜しさを感じた。

何でこんな風に思うのか。分からないけれど、そう感じているのは確かで。
同じくまだ自分の腕に触れている彼女の両手もすぐ離れるんだろうと思うと、やっぱり同じ気持ちが浮かぶ。

だが予想に反して彼女の手は動かない。

「?サッちゃ------」
「・・・ん、帰ろ」
そう言うと、彼女の両手がぱっと離れた。
完全に離れた暖かさにふいに淋しさを覚える。

------だが、束の間だった。

彼女の左手でぎゅっと握られたのだ。


------右の中指だけ。

「は」
「よし行こっ」
そのまま引っ張られる。さっさと進む彼女に引かれるまま歩く。

・・・・何で指だけ?
右手を見る。根元から一本だけ握られた指。一本だけだけど。

・・・・・暖かい。

知らず、顔に笑みが浮かんでくるのが分かった。
歩きながら包まれた中の指以外の4本を動かす。


手の平ごと動かして----------繋がれた彼女の左手をぎゅっと握った。

彼女が驚いたように振り向く。
「どしたの?サッちゃん」
「・・・・・・・・何でもっ」
そう言うとまた前を向いて、すたすたと歩き始めた。
一体何なのよ、とか斜め前でぶつぶつ言ってるのが聞こえる。
その様子に何だか笑いが漏れる。と、またがばりと彼女が振り向く。
「ちょっどうして笑うのよっ!」
「あれサッちゃん顔赤くない?」
「気のせいよバカっ!って答えになってない!」
相変わらずいつもの彼女。怒られながらも笑みを抑えられない。胸がひどく温かいから。
結局握るような形に収まった手がくすぐったい。いやこの形にしたのは自分なのだけれど。
怒った顔の彼女にべしっと叩かれる。でもその手は空いた右手で、繋いだ左手はそのまま。
一層笑みがこぼれてしまう。ああそっか嬉しいんだ。

早く怪我が治ればいい。
早く元気になればいい。早く、彼女が。


この手を、守らなければ。



「だーかーらー何で笑うのよっ!」



手から伝わる暖かさを離したくなくて、包む手の力をそっと強めた。




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背景つけようとしたけどもういいや状態で投下。


ブラウザバックお願いします〜。

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