天井からぽつっと一滴落ちて、湯船に吸い込まれた。
「アンナちゃんの手、キレイね」
「きっちり手入れしてるからよ」
ふふん、とアンナが笑った。
「あたしも結構まともになってきたと思うんだけどなぁ」
サチが自分の両手の甲をかざす。寺の勤めをしていた時はどうしても手が荒れていたものだった。
―――というよりも、アンナが来るまで特に気に留めていなかった、という方が正しい。アンナ手持 ちのケア用品を見た時は目を丸くしたものだ。
アンナが上半身をん、と伸ばす。湯が少しだけ波を立てた。
「あたしも台所仕事多かったけどね。ちゃんと毎日手入れたら全然違うわよ。ま、悩みのタネは刀使 い過ぎたらタコができるぐらいー?」
おどけた台詞にサチが笑む。アンナがついとその手を取った。
「上がったらクリームと爪磨き貸したげるわ。ピカピカになるわよ」
わぁとサチが声を上げる。
最初アンナがポーチの中身を見せた折。サチはまずかわいい、と言ってケースを手に取り。それらを 感嘆したように順々見つめた後、
『・・・これは、なんに使うもの?』
と、ことりと首を傾げた。 ――どうやら、こういった事には疎いらしい。
「ボディケアはお風呂上がってすぐ!」
「そうなんだ?あたっ!痛!痛!」
「マッサージは痛いぐらいがちょうどいい〜」
歌うように言い、湯の中でサチの手の平をぐにぐにと押す。
そのままサチの痛いいたいとの呻きをバックに指をかなり無理な方向へ反らしたりしていたが、ふと アンナの目にきらっとした光が浮かんだ。
「―――ついでに、他のトコもマッサージしようかしらね。色々」
サチの顔を見据え、『にーっこり』という形容がふさわしい笑みをアンナが乗せた。
サチがぱちりと瞬き。――それからひくりと頬を引き攣らせた。
「え・・・なんでそんな怪しげに笑ってんの?なにそのわきわきした手?いやふふふじゃないしちょ っ」
言い終わらぬうちに言葉が途切れた。
間、一拍。
「――――っっきゃ―――!!」
サチの悲鳴が響き渡った。次いでざぱんと水飛沫が上がる。
「どこ触ってんの―――!!」
「ふははは観念するがいい!!」
「なにその悪役なセリフー!?ちょっ!変なとこ触るなー!!」
「すーべーすーべー。よいではないかよいではないか」
「そりゃ悪代官だー!!」
「あ、やっぱ胸大きくな」
「きゃーきゃーきゃー!!」
丸聞こえ・・・!!!
男湯の一同が心中で叫んだ。
隣の湯場の声はちょっと大きい程度でタイル壁を易々と突き破る。 おまけにその壁の上部は細い隙間があるので、修学旅行トークは後半以降気持ち良いぐらいに筒抜け だった。ついでにかなり暴れているらしく高い水音も響いてくる。
「大体なんでヒトのサイズ知ってるの!?」
「(真)夜中に触って測った。一応『測っていい?』と(小声で)断りを入れたんだけど無言の肯定 と受け取って」
「ちまたのセクハラ親父よりタチ悪―――!!あ――!!」
男湯で椅子に座っていた一人が、己が頭上で洗面器をざぱっとひっくり返した。
床に派手な波紋がざっと流れて、それに触れたコマがひゃっと飛び上がる。
湯船の縁にもたれ掛かっていたジゾウの背に飛沫がいくらか当たった。
・・・・・水。
髪からぽたぽたと冷水を滴らせる男をジゾウが半眼で振り返った。
「・・・おまえさぁ、」
「・・・・・今セリフの受付禁止、石頭」

「てんめぇいきなりケンカ売りやがって―――!!」
突如隣から轟いた怒声に、女湯の二人の身体がびくっと跳ねた。









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